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移植医療臨床研究支援事業
              若手研究者派遣プログラム

▼2005年度助成者 報告書

齋藤 俊樹

Massachusetts General Hospital / Harvard Medical School, instructor

◆今回の派遣により得られた成果

 製薬企業による企業主導の治験においては、生物学的安全性・有効性が期待される生成化合物がまず存在し、基礎研究を基にした第I相試験が計画され行われる。しかし、治癒を目指す方法として有力であると考えられる骨髄移植を始めとする細胞治療の開発においては、単純に「化合物の産生」→「治験としての効果判定」という流れでは開発ができず、「臨床現場での発見」→「前臨床試験へのフィードバック」→「前臨床試験での基礎的検討」→「第I相試験をはじめとした臨床試験など臨床現場へフィードバック」という仕組みが必要になる。前臨床研究とヒトを対象とした臨床試験を両輪としながら先端医療である細胞医療・移植医療をどのような仕組みで発展させているのか、代表的施設であるマサチューセツ総合病院(Massachusetts General Hospital, MGH)のその歴史的経緯と現時点で完成されている第I相試験と前臨床試験の連鎖の実際を把握すること、及びこの流れを実体験することにより、有意義な研究生活を送ることが出来た。

  アロ移植が通常医療として定着し始めた1980年代、骨髄移植は白血病・リンパ腫に対する大量化学放射線療法の際の骨髄抑制という副作用を救済する目的で行われており、抗腫瘍効果はあくまで前処置としての高用量の化学療法・放射線療法に期待されていた。しかし、移植したドナー(移植片)細胞由来の正常T細胞が患者の腫瘍細胞を攻撃することにより抗腫瘍効果を期待するGraft-versus-Leukemia(GVL)効果が明らかになるにつれ、移植直後の合併症や致死的合併症として知られる移植片対宿主病(Graft-versus-Host Disease; GVHD)の原因となり得る前処置をなるべく弱め、GVL効果を主体とした免疫療法、いわゆる骨髄非破壊性アロ移植あるいはミニ移植が1990年代後半に開発され、注目を集め始めた。

 MGHのTranslational Researchの研究室の責任者であるDr. Megan Sykesと、移植病棟の責任者であるDr. Thomas Spitzerは、これまでに共同して、このミニ移植のプロトコールの開発にあたってきた。

 先ず、Dr.Sykesの基礎研究室において、マウスモデルを用い、抗体によるT細胞除去、Cyclophosphamide、胸腺照射を組み合わせたミニ移植の前処置療法の開発を行った。これを基に、Dr. Thomasが中心となり、ヒトを対象とした第I相試験を行い、安全性・有効性を確認し、当施設は現在なおこの3要素による前処置を継続し、ミニ移植を成功させてきている。

 当院におけるこの第I相試験施行中に、ドナー細胞の生着が一過性で、最終的にドナー細胞を拒絶する患者群をかなり高率で認めた(82人中22人)が、驚いたことに、このドナー細胞を拒絶した22人中9人の患者に腫瘍の縮小が認められ、4人が治癒するという興味深い症例を経験した。ミニ移植の場合、抗腫瘍効果の主体は、GVL効果、すなわち長期生着した移植片由来のT細胞が主体となる抗腫瘍効果であるため、この効果が発揮される2〜3ヶ月の生着期間が必要であると考えられているが、これら22例には、そのような生着期間は認められなかった。更に、ミニ移植では前処置が極めて軽微であるため、前処置により腫瘍が治癒することも有り得ない。すなわち、前処置による抗腫瘍作用も、移植片由来のT細胞主体のGVL効果を期待する為に必須と考えられている生着も得ずに疾患が軽快・治癒した症例を経験したことになり、抗腫瘍に至る別の機序の存在が推測された。

 私は、この臨床試験で観察された現象を再度マウスモデルに立ち返り再現し、そのメカニズムを解析し、この現象を再度治療として臨床応用に持って行くというプロジェクトに渡米以来携わってきた。マウスモデルにおいてもアロ移植片の拒絶が腫瘍特異的な免疫反応を惹起することが示され、メカニズムの解析と共にその効果を増強させる手段も幾つか見つかりつつある。マウスモデルで得られた知見を基に、ヒトを対象とした第I相臨床試験を行うための研究費申請書の作成を共同責任者(co-investigator)として行い、現在申請中である。



◆研究成果が移植医療,あるいは先端医療に与える貢献
 これまで、臨床・基礎共に経験した自身が、この過程を経験することにより、基礎的検討への動機付けと、臨床試験を遂行するために必要な基礎的検討は何か、臨床試験を行う際に必要な情報や収集すべき検体の保管・管理の問題、両者を有効に活性化させるためのチーム体制作りと適切な人材配置など、様々なことを体得した。また、こういったトランスレーショナルリサーチに携わる基礎研究者として、大学院時代にマスターした分子生物学に加え、細胞レベルでの免疫学的研究手法も体得し、前臨床研究に必要な研究を実行可能な状態にまで至ることが出来た。

先端医療、特に企業が主導となって治験を行いにくい移植医療を含む細胞医療の分野では、前臨床段階での研究と臨床試験のスパイラルをいかにスムーズに動かすかが鍵となる。移植分野においてこれを実際に実行しているのはFred Hutchingson Cancer Center, Stanford Univsersity, Harvard University/MGHなど限られた施設である。今回、その実例を実際にプロジェクトのメインプレイヤーとして参加しながら体得できたことは、今後日本においてこのような先端医療を進めていく上で必要なノウハウを体で身に着けることが出来たことが、最も移植医療・先端医療に今後継続的に貢献できることになる最大のものであると考えられる。



西田 徹也

Fred Hutchinson Cancer Research Center, Clinical Research Division, Program in Immunology, Postdoctoral Fellow

◆今回の派遣により得られた成果

 Fred Hutchinson Cancer Research Centerにおいて、Stanley R. Riddell博士の指導のもと、造血細胞移植後の免疫応答、特に、慢性リンパ性白血病 (CLL) に対する骨髄非破壊的同種造血幹細胞移植 (NM-HSCT) 後の細胞傷害性T細胞 (CTL) と抗腫瘍効果との関連についての研究に行った。
 CLL細胞は、細胞接着分子 (CD54/CD58) や共刺激分子 (CD80/CD86) の発現が弱いため、T細胞を活性化するための抗原提示能が低いが、IL-4存在下でCLL細胞上に発現しているCD40をCD40リガンドにて活性化することで、細胞接着分子と共刺激分子の発現が増強し、有能な抗原提示細胞となることを示した。そして、HLA適合ドナーからNM-HSCTを施行したCLL患者10名から得られた移植後末梢血単核球を、患者CD40活性化CLL細胞と共培養し、CLL反応性T細胞の樹立を試みた。移植後抗腫瘍効果が得られた5名全例からCLL細胞を含む患者標的細胞のみを認識するT細胞株が樹立された。それらのT細胞株のCD4+ T細胞、CD8+ T細胞は、共にCLL細胞に反応してIFN-γを産生し、また、パーフォリンを介する機序によりCLL細胞を傷害した。一方、移植後に抗腫瘍効果が認められなかった5名からは、急性GVHD合併にも拘わらず、患者標的細胞のみを認識するT細胞株は全く樹立されなかった。抗腫瘍効果を示した5名から樹立したCD8+ T細胞株より、27個の異なるマイナー組織適合抗原を認識するCTLクローンが分離された。5名中4名からは、複数のmHAを認識するCTLクローンが樹立された。
 以上の結果より、CLL細胞上に発現している多様な抗原に対するCTLの出現が、NM-HSCT後の抗腫瘍効果に重要であることが明らかになった。


◆研究成果が移植医療,あるいは先端医療に与える貢献

 腫瘍細胞は、HLAや腫瘍抗原の発現低下などの機序で免疫監視から逃れることが知られている。今回行った研究においても、抗腫瘍効果が得られた患者から、CD8+/CD4+ CTLが樹立され、また、多様な抗原に対するCTLクローンが樹立されており、様々な抗原を標的として腫瘍細胞を傷害することが、腫瘍根絶に重要であることが示され、今後、造血細胞移植後の有用な免疫療法を確立する上で重要な知見が得られた。
  また、現在、樹立されたCTLクローンが認識している抗原の同定を進めており、白血病特異的抗原あるいは血液系細胞特異的なマイナー組織適合抗原が同定されれば、重症移植片対宿主病 (GVHD) を回避し、移植片対白血病 (GVL) 効果のみを誘導でき、移植後再発に対して有効な治療法を提供できる可能性がある。




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