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移植医療臨床研究支援事業
              若手研究者派遣プログラム

▼2004年度助成者 報告書

山本 精一郎

国立がんセンター がん予防・検診研究センター
情報研究部予防・検診情報評価室 室長

◆今回の派遣により得られた成果
 米国国立がん研究所(National Cancer Institute, NCI)の臨床試験担当部署CTEP/DCTDならびに米国食品医薬品局(Food and Drug Administration, FDA)の担当部署CDERにてインタビューを行い、移植領域での臨床試験の特殊性、とくに有害事象報告についての取り組み方や見解を調べた。その結果、以下のことがわかった。

 1. NCI/CTEP trialにおける有害事象報告について調べ、IND trialについてはそれらがTheradexのClinical Trial Monitoring Systemによって管理されていることがわかった。
 2. NCI/CTEP sponsored trialに対するAuditについて、上記システムの一部として、IND trilaについては年に3回のauditがあることがわかった。これらはFDAとの合意の上の方法である。
 3. FDAとプロトコールを事前に相談することによって、移植の試験など、有害事象が非常に多い場合に重要でない報告を減らせる可能性があることが判明した。
詳細について知りたい方は山本まで御連絡ください。*

◆研究成果が移植医療,あるいは先端医療に与える貢献
 本研究によって、本邦における研究者主導の臨床試験の有害事象報告を効率的に行うシステムをどのように構築していけばいいかについて大きな知見が得られる。これを元に、移植医療や先端医療などの有害事象が頻発する可能性のある領域の臨床試験において有害事象報告をどのように行っていけばよいかの指針が得られ、それらの開発のスピードアップと効率化に寄与すると考えられる。


 *事務局にご連絡をいただけましたら,お取次ぎさせていただきます。

齋藤 明子

Department of Medical Oncology, Dana-Farber Cancer Institute
Post-Doct Research Fellow
◆今回の派遣により得られた成果
  同種造血幹細胞移植は、移植前処置療法の治療強度に基づき、以下の2つに大別できる。一つは従来型の骨髄破壊的な移植前処置療法に引き続く造血幹細胞移植(以下、骨髄破壊的移植と略す)であり、もう一つは近年開発された免疫抑制剤主体の骨髄非破壊的な移植前処置療法に引き続く造血幹細胞移植(以下、骨髄非破壊的移植と略す)である。骨髄非破壊的移植は、移植後早期の毒性が少なく、骨髄抑制期間が短いなどの特徴があり、移植患者の生活の質(Quality of life: QOL)がよく保たれ、輸血や抗菌剤の必要量が少ないため医療費削減が期待出来るのではないかと考えられてきた。一方、移植片対宿主病(Graft-versus-Host Disease, GvHD; ドナーのリンパ球が患者の臓器を異物とみなして攻撃してしまう合併症)などの合併症やこれに伴う感染症が骨髄破壊的移植より遅く発現したり、腫瘍細胞の残存に基づく再発の危険性などの問題があり、移植後後期には、患者のQOLが悪化したり、医療費が高まるのではないかと考えられてきた。これらの仮説を検証するため、治療強度の異なる2つの移植療法について、臨床的結果、患者のQOL、及び医療費への影響を検討した。
 研究方法を以下に示す。2000年6月から2003年9月までに当施設で造血幹細胞移植を受けた447症例を対象とし、疾患の再発の有無、合併症の有無、発現時期などの臨床データについて臨床データベース及び全症例の診療録から情報を収集した。個々の症例の医療費に関する情報については、移植のための入院日から移植後1年までの全入院・外来費用を当施設の会計課より収集した。全症例の移植前、移植後6ヶ月、移植後12ヶ月の3時点におけるQOL調査の実施を試み、40%以上の症例から得られたQOL調査票を収集した。治療強度の異なる2つの移植療法について、臨床結果、医療費、QOLの各側面から、単変量解析及び多変量解析を用いて比較した。
 研究結果の要約を以下に示す。骨髄非破壊的移植を受けた患者は、従来型の骨髄破壊的移植を受けた患者に比し、原疾患は進行症例が多く、HLA一致症例が少なかった。全生存率、及び無病生存率は、単変量解析においても、患者背景因子のバラツキを調整した多変量解析のいずれにおいても、移植前処置療法の治療強度によらず同等であることが確認された。QOLについては、移植前、移植後6ヶ月、移植後12ヶ月で両群間の差はなく、治療強度の異なる2つの移植手技が同等の治療成績を示していることを裏付ける結果となった。一方医療費については、骨髄非破壊的移植を受けた患者は従来型の移植を受けた患者に比し、入院期間が有意に短く(21日間の短縮)、医療費も有意に安価である($60,552の減額)という結果が得られた。この結果は、両群の患者背景因子のバラツキや個々の患者の生存期間で調整してもなお観察された。
 つまり、骨髄非破壊的移植を受けた患者と従来型の移植を受けた患者を比較した場合、臨床的結果及びQOLは同等であるが、医療費や入院期間は有意に骨髄非破壊的移植を受けた患者で勝っているということが示された。将来的には従来型の移植の適応がある症例を対象とした前向きランダム化比較試験を計画し、両群を公平に比較する必要があると考えられた。

◆研究成果が移植医療,あるいは先端医療に与える貢献
 医学的な治療方針の決定に関与する臨床的アウトカム(生存や合併症)、医療費、生活の質(Qualtity of life: QOL)の要因を詳細に調査検討することは、今後の移植医療を考える上で非常に重要であるにも関らず、これまで日本では殆ど行われていなかった。この最大の理由は、質の保たれたデータ収集のための標準的なシステムが整備されていなかったことに尽きる。今回、造血幹細胞移植における重要な海外の施設において、十分な量のデータを用いて、この臨床的アウトカムの評価の方法論と、患者のデータ管理システムの構造を観察することが出来、有益であったと考えられる。
 これまで血液内科の専門知識を有しつつ、統計学を学んだ者は皆無に等しく、又統計の知識を有する血液内科医もおらず、造血幹細胞移植成績について、統計学的・医学的の両側面から適切に評価することは困難と考えられてきた。臨床医の立場から、データ構造や統計学的知識・技術を習得したことは非常に貴重であり、将来的には、血液疾患の治療成績を正確に評価すること、及び国内で立ち遅れているアウトカムリサーチの分野を確立することにより還元することにより貢献していきたいと強く思っている。
田中 祐次


Duke University, Program in Molecular Therapeutics, Research scientist

◆今回の派遣により得られた成果*

Duke大学やマサチューセッツジェネラルホスピタル(MGH)における患者サポートの調査を踏まえ新しい形の日本での患者サポートシステムの構築をすすめた。

患者会の活動を通じて患者や患者家族から医療の一般情報だけではなく個別情報を得ることも重要であることがわかってきた。また、患者を取り囲むコミュニティはいままで言われている医療者、家族や友人だけではなく、それぞれの持つコミュニティ(学校、職場、研究者、司法、立法、メディアなど)も含めた新しい医学コミュニティを考える必要性を実感した。そして、情報だけではなく医療者との良いコミュニケーションが得られることで医療がスムーズに進むことがわかった。これは、アメリカ合衆国DUKE大学における医療情報の提供方法、MGHにおいて医療者のコミュニケーション能力向上方法を調査の結果であるが、更に、日本独自のコミュニティの構築が今後必要になってくると考えられる。

DUKE大学においては院内に複数のフリーペーパーを設置し、医療情報ばかりではなく各医師の顔写真いりの紹介などを行うことで患者や患者家族に適切な情報を伝えるとともに医療者へ親近感を向上させている。また、患者、患者家族からの投票でベストナース賞など各種の賞を設けることで患者、家族に対してのサービス向上の意識を医療スタッフに芽生えさせている。

MGHでは Schwaltz Round という症例検討会を毎月開催している。ここでは、医師だけではなく看護師やソーシャルワーカーなどさまざまな医療者が参加し、そして、症例ごとに医療者と患者、患者家族とのコミュニケーションに関しての議論を重ねる。また、この内容は The Oncologist に掲載されている。The Oncologist の Editor in Chief でありMGH の Clinical Director でもある Dr Bruce Chabner と面談し、この試みがコミュニケーションの向上のためであることなどを聞いた。

これらの内容は医療コミュニケーションにおける日本と海外との比較として、2006年第一回医療の質と安全学会学術大会にて口演発表し、その後の試みに関しては2006年看護科学学会の口演と交流集会にて発表した。

◆研究成果が移植医療,あるいは先端医療に与える貢献*

今回の調査の結果を踏まえ、日本において、患者、家族への個別情報の提供を行うとともに、医療者・患者・家族間のコミュニケーション向上させる方法として Community Facilitated Medicine の確立をすすめている。

個別情報の提供に関しては、治療 Phase の異なる時空を超えた患者同士の交わりの場、つまり、外来患者が入院患者へ情報を提供する場として病院ごとの院内患者会の設立を進めている。現在7つ(東京女子医大、東大病院、駒込病院、虎の門病院、日立総合病院、筑波記念病院、倉敷中央病院)設立した。更に、2006年11月より院内患者会世話人連絡協議会を組織し、その中で院内患者会設立マニュアルの作成し、2007年2月に全国に配布した。この協議会からマニュアルなどを用いて院内患者会の設立をサポートしていく予定である。現在、設立マニュアルの充実と運営マニュアルの作成を開始している。http://www.medicina-nova.com

Community Facilitated Medicine は、医療者、患者、患者家族が作る最小単位の Community とそれぞれが持つさまざまな Community(例えば、学校、職場、家庭、司法、立法、製薬企業、メディアなど)とのかかわりを考慮しながら、Community 内で生じるコミュニケーション不足の解消を導いたり、Community 同士での問題を調整することである。それを行う役割を担う Facilitator として患者や家族とのカウンセリングを開始した。コミュニケーション不足から主治医に対して不信を抱いた患者と家族のカウンセリングを行い、不信感を解消させることなど実践している。また、Facilitator の育成として2006年6月より毎月セミナーを開催し Facilitator の育成を行っている。

これらの活動を通じ、新しい医療のコミュニティつくりを行っている。


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